![]() ○―― 夜があった。 深い夜だ。 アスタリカ=オニールはそんな夜の中、一人図書館のとがった屋根の上にしゃがみ込んでいた。 正面には中央広場。それを囲むように本校舎があり、斜め右には本校舎東棟に包まれるように情報科棟がある。 右手にはノイエリーベ。左手には森。 それらを見下ろす位置だ。 そんなアスタリカの脇。ちょこんと小鬼が座っている。 『しゆう』『ゆうしい?』 「じゃあ、見ましょうか。始まりの夜というものを」 言えば小鬼の視点がアリカへと繋がる。小さな箱庭に散らばった小鬼が見る世界。それが一手に押し寄せる。 「神様視点のリプレイね」 鼻で笑ってその夜を見る。 見れば何ともない、今まで見てきたものと同じ夢だった。 ○―― それは力と共に恨みのこもった声。 「僕らはずっとこんなことを繰り返してきたのだな……256回も悪夢を見れば、二度も同じ悪夢を見ないだろうと、深層意識から思うだろうとこの悪夢を作ったというのに!!」 アスタリカは月光を背面に浴びながら黙って聞く。 「13人パーティーで旅するPRGだって、誰も仲間にしない一人旅でラスボスに256回も挑めば倒せたんだ! ホントだよ。僕は――ああ、くそう。ダメなのか……神よ!」 ダメだったね、とアリカは思う。何故ならそれは、当たり前の積み重ねで起こった事故のようなものなのだから。 「それでそんな高い所から見下して……っ。僕らの罪を、運命と嘲笑っていたか……!」 随分と心外だな。と思いながら聞く。積み重ねは思い出しても、たった一夜前の願いも忘れているのだ。責めようもない。 しかし。一つだけ確認しておくことがある。 「あんたそのボス、256回目で倒したのね?」 「小躍りしたね! 実に区切りのいい数字で!」 ゲーム脳が刺激されてテンション上がっているのか、ろくな返答ではないがおそらく肯定ととっていいだろう。 「そう……ならやっぱりあんたらは解放できるわ。世界を壊さずに」 桜が舞う。薄紅色に覆い尽くされる。 「もっともそれは――」 ○―― 白い世界がある。何度も来た、何もない世界だ。 そこに白い影が立っている。 そしてアスタリカは気付く。 この影の正体を。 何を基にして、何を礎にしようとしているのか。 だから“名付けてやる”。まだ生まれても居ない、その“姉弟”に。 「あなた、“ナイトメア”ね」 ○―― 闇の中。 何もない、何も見えない所から、ゆっくり意識が覚醒し、夜の青く澄んだ闇の中へと生まれる。 アスタリカ=オニールは正門前で目を覚ました。 残りの魂の数は1。 げらげらげらと小鬼が笑う。もはや実体として見える小鬼は一匹だけだ。 それでいいと思う。この子鬼の数が、確信だ。 「最後の一夜……」 それを残りの魂1で迎えられたのは良かったとも思う。 「この夜が終われば、残りの魂は0になる。けれど――」 ○―― よしっと立ち上がる。行く当てはないが、しかし何もしなければ殺されてしまうのがこの世界だ。油断は出来ない。 そして。 「うげっ、エンカウントしましたよっ」 遠く。本館西棟の出入り口付近に藤実勇を発見した。むしろ「うげ」はアスタリカの言葉だろうが、発したのは本人の勇だった。 その勇はすぐさま身構え。 「べっ、別にアリカのために協力するわけではありませんからねっ」 逃げた。 「……は?」 アリカは混乱する。今までにない反応だ。 「ちょっ、何企んでるの!?」 イヤな予感がする。盛大にイヤな予感だ。 「ッ!?」 とりあえず背後を振り向く。何となくこのタイミングならば、藍兎が隙をついて背後から斬りかかってきてもおかしくないと思ったからだ。しかし、藍兎どころか人の気配はない。 「……や、やばい……。ラスト一夜だってのに、この期に及んで……」 人の気配はないが、【闇】が蠢いている。それも、明確な意思を持っているかのように。静かに、ゆっくりとどこかへ集まろうとアリカを無視して消えてゆく。 その原因はわかっている。 「この【声】……」 先ほどから遠くで鳴っている、高く澄んだ【声】。館林凛子が何かを唄っている、その響きだ。 「ウソでしょ……もう……」 ○―― 本館西棟を曲がってすぐ、何かを踏んだ。それは。 「ユーキ!?」 死体だ。うつぶせに倒れているが、肩から腹にかけて正面から斬られたようで、出血が激しい。そして、その血でレンガの地面に何かが書かれている。 「……“ありがとう”?」 わからない。 死にながら書いた文字。ダイイングメッセージ。 それはわかる。 しかし。 「……死んでる……よねー」 本当に不気味なので、魂が増えるリスクを犯して、あえて勇の頭を握りつぶした。 「……よ、よし、死んでた」 ほっとする。アリカは心底ほっとした。 ○―― 「あなたに、プレゼントがあるのよ。アスタリカ=オニール」 その表情は至って不敵。心静かに。ほのかに蒼い月光の元で、微笑むように。 唄うように、告げる。 「企画・発案は、田中藍兎。アンタの“魂”と、この“悪夢”の関係を教えてくれた」 アリカは思う。まずいな、と。藍兎はろくな事を発想しない。 むくむくと恐怖感が湧いてくる。 何より、今ここで“ナイト”をけしかけられたらまず死ぬ。陸美とヨモギを吸収したのだ、太刀打ちできるわけがない。 だから、チャンスをうかがう。まず、凛子の喉を潰さなくては。それだけ済ませば、とりあえず凌げる。 何より。 死んだら、死ぬ。 残りの魂は、もう10ないのだ。そのぶん、自分の魂まで消えるのか、一個だけの代償で済むのかは不明だが、いずれにせよあの“白い空間”にはたどり着けない。 だから目を細め、腰を落とし――。 「最高の【声】であなたに伝えるわ。アスタリカ」 踏み出す。 「――“ありがとう”」 二〜三歩。強い踏み込みは、そのままの勢いで、しかし凛子を通り過ぎた。 ○―― 「“君が見守ってくれたおかげで、この結果を選ぶことに不安がなくなった。”田中藍兎」 何を、言っているのだろうか。それが、アリカの感想だった。 「“別にアリカのためではなく、自分の全てをもって行くためです。が、感謝もなくはないです。”藤実勇」 礼を言われている。なんとなくだけ、それを理解する。 「“恋愛の女神に伝えてくれ。待遇の改善を。頼りにしてるよ神様。マジに。”立川頼茂」 これはあまり意味がわからなかったが、凛子の機嫌が悪くなったのはわかった。 気を取り直し。 「“私たちが不甲斐ないばっかりにごめんなさい。ありがとう。”天海陸美」 本当だよ、と思うが、それは陸美に限らない。気にやむ必要はないのに、陸美らしいといえば陸美らしい。 「“なんかの拍子に現実世界に出てきたら、完全体の俺を見せてやるぜー。”比良坂ヨモギ」 そういえば、この夢幻の中と現実とで、ヨモギは半分の流体濃度しかなかったと言っていた。完全体になったら、より一層ろくな事を言わないのだろう。 「“礼を言う。ありがとう。そして、お別れだ。”アルバート・芙蓉=シンディ」 ……初めて聞く名前だ。勘は働くが、しかし一応訊ねる。 「……誰?」 「不良紳士」 ふよーしんでぃ。 「あの金髪、地毛?」 「瞳も生まれ付いてのブルーなんだって。名前知ったのも私も初めて。天海さんなんて、その事実を知ってからずーっと私の手を握ってぎゅーぎゅー、ぎゅーぎゅー。すっごい痛かったし、すっごい怖かったし」 さぞかし嬉しかったのだろう。 ○―― 「みんなで決めた一つの答えと、そしてあなたとのお別れ会よ」 ○―― 時刻は20時半に差し掛かったくらい。 「……えー……ちょっと……」 がっくりとアリカはその場にへたり込む。 「そういうのってさぁ……寂しいじゃない」 しかし、口元は笑っている。 まったく。 「これが本当の“戦後”、かな。ホントに良くわかってるわ、私へのプレゼントが」 あたりでは、ほとんど見えなくなった小鬼達が好き勝手に学校施設を使っている。もはやこの世界の住人は自分たちだけであるように。 その中で一匹。実態の残った小鬼が口を開く。 『ありがとう』 「こちらこそ」 そして残った時間をゆっくりと過ごし、アリカは心静かに0時を迎えた。 ○―― 世界がある。 白い世界だ。 それ以外は何もない。何も見えない世界だった。 しかし、アリカは思い出す。 ここは、自分の居た場所と同じだと。 ○―― そこでようやくナイトメアが笑う。 「だが! アスタリカ! 君のおかげだ! いまさっき! ようやくだ! 俺は、俺の世界の中に生まれることが出来るようになった!」 白の世界にヒビが入る。 「さぁ! 生まれよう! 産声を上げよう!! 神様の誕生だ!!」 そして、アリカにとっては見慣れた闇の世界が姿を現した。 ○―― 「ああ、そうだ。俺の本質は“悪夢”の擬人化。【M】だったナイトの影響で、“悪夢”がなければ心を保てない。そのために人間が必要だった」 「だけどゴメンね。アタシの都合でみんな解放しちゃった」 そう、アスタリカの都合だ。そして。 「んで、アタシの都合で――」 身体を倒す。左に。さらに長い腕を主軸に回転するように噴水を回り込み――。 「その魂を提供してもらうわッ!」 遠心力を使った一撃。左腕のカギ爪を叩き込むようにナイトメアに。 しかし。 「――ッ!?」 それは、“小鬼”に阻まれた。 「残念だったね。この世界は俺の思い通りなんだ」 小鬼と腕は両者弾むように弾かれて、小鬼は数度転げた先で痛そうに頭をさすっている。 見れば、アリカは小鬼に取り囲まれていた。 「これが悪夢だ、とでも言いたかったんだろうけど……残念だがその必要はないよ」 そして姿の見えなかった人影と、深く蠢く【闇】の姿がゆっくりと現れた。 「こんな簡単に悪夢を生み出す生物をそうそう手放してたまるかよ。本当に間一髪、俺も逃がしたと思ったけど、ちゃんとこうしてこいつらも俺の中だ」 ○―― 「あ、あんたたち……裏切ったわねっ」 「たち? 馬鹿を言っちゃいけない。先に裏切ったのは君だ、アスタリカ。そしてこの世界に神は俺だけで充分なんだよ!」 小鬼たちはそれを聞いて笑っている。げらげらと。 アスタリカを見下し、ナイトメアを見上げて。 くそう、くそうと手を伸ばす。 裂け目の向こうで小鬼が楽しそうに踊っている。 そこへ少しずつ、少しずつ押し込まれる。 手を伸ばす。 命へと。 ゲラゲラゲラ。小鬼が笑う。 「笑うな……」 目の前の、もう少しで届く、その魂へと。 ゲラゲラゲラ。 手を伸ばして――とどかない。 「アタシを……笑うな――ッ!」 叫んだ。心の限り、悔しさを叫んだ。 そして気付く。 この小鬼たちは、笑ってなど居ないのだ、と。 それだけ気付いて、アスタリカ=オニールはこの世界から消え去った。 ○―― 茅ヶ崎炬宵(ちがさき こよい)は夜の中に目を覚ました。 目に見えるのは灯りの付いていない高い天井。すぐ脇には見慣れたベッドがあり、そこから転げ落ちたのだと認識するのに数秒かかった。 さらに、なぜか左手を高く天井に向けて伸ばしている。やけに短い腕だと思う。 夢を見た。 悪夢を見た。 それを覚えている。 そして、悔しさと、後悔が一気に押し寄せる。 ――自分はアスタリカ=オニールではない。 そんな当たり前の自覚が、大きな喪失感になる。 「助けられなかった……」 ○―― 夜の月明かり。月光に照らされて、窓から赤い錆色の髪が鈍く光っている。 撃甲というには時代かかった意匠の甲冑と、そして特徴的な長い左腕。 その人物を、炬宵は知っている。 「アスタリカ!!」 「やほー。生まれたよー」 アリカは機嫌よく手をひらひらと揺らした。炬宵が慌てて窓を開けようとのたうつので、代わりに燵夜が窓を開ける。 と、同時だ。 「そしてこんちには、お父様。アタシを捨てたにっくき人間……」 錆色の長い腕が燵夜の首を掴む。 ○―― 「アタシ、神様やめるわ」 ○―― ナイトメアは悪夢の中に居た。 「な、なんでだよっ……」 暗い夜の中、満身創痍で学内を走る。 「おや、悪夢が糧ではないのかね? 今正に、悪夢の真っ只中だろう?」 声の主はやや遠く、ゆったりとした動きでナイトメアを追う藍兎。走るナイトメアがその距離を離せないのは。 「藤実、これ楽しいです」 ぴったりと勇に張り付かれ、リズミカルに殴られ続けているからだ。 遠くで小鬼が数匹笑って見ている。 「ふ、ふざけるな。何で神の俺が、世界が俺の思い通りにならないっ」 殴られ、蹴られ、腕を折られる。 「何故なら、ここが俺たちの世界だからだよ」 ○―― 正門前のロータリー。そこにナイトメアは横たわり――何もしない。 思うのは、こんなはずではなかったということだ。 痛みはない。 恐怖もない。 ただ、何の一つも自由にならない。 思い通りにならない。 「なんだ……これ」 相変わらず小鬼が笑っている。 そこへ、ガラガラと何かを引きずる音が響いた。 ナイトメアはその音を知ってはいる。何度も自分の中で響いていた音だ。 「それは、人生よ」 応えたのは、長い左腕を持つ、自称神、アスタリカ=オニール。 「……じゃあ、喰らってくれ。すまなかった」 対する答えは。 「イヤよ」 寝転んだまま、ナイトメアは顔を覆う。そして、そのまま声もなく震える。 ○―― げらりげらり。小鬼が笑う。 『あくむ』『にくむ』『きょうふ』『のみそしる』 「そんなこと認められるか!」 ナイトメアが立ち上がる。ふらりと、小鬼を見据えて奥歯を噛む。 「返せ……返してもらうぞ……俺の全てを――ッ」 その姿を見て、アリカは満足したように背筋を伸ばした。 月夜。濃紺の世界が震え出す。 「時間ね。残念だけどこの世界、噪域に食われるわよ」 ○―― 「だから問うわ。ナイトメア。アンタ、過酷な外の世界に生まれたい? それともこの狭い世界に生き残りたい?」 答えは単純。 「ここが俺の世界だ! 手放すものか!」 げらげらげらと、この世界の住人が笑う。 ○―― 小鬼達が手を叩く。笑う。 げらげらげら。 「俺を……俺を笑うなぁぁぁぁぁぁぁぁッ」 そして世界へ生れ落ちる。 その落ち行く中で、アスタリカも笑う。 「あれは笑ってるんじゃないの。Get up.Get up.立ち上がれって」 そう、彼らはずっと、アリカを見て応援をしていたのだ――。 ○―― 真冬。凍るような、晴れた夜。 足枷市はまた新しい日を迎えようとしていた。 そしてその夜。足枷工業大学付近に、数名の人間が集まっていた。 市の職員と、有志。彼らは数年に一度起こる噪域大移動に対して、被害を最小限に抑えるため立ち会って居るのだ。 そして今正に、蜃気楼のような噪域が足枷工大を飲み込もうとした瞬間。 闇が広がった。 夜よりも深い闇。それがあたりに展開する。 同時、闇より湧き上がる魑魅魍魎。 そして小鬼が踊り出る。 世界に唄う。 『へろぅ わーるど』 闇は点々と足枷市へと広まる。小鬼の数も増える。 その様子は正に百鬼夜行。 ○―― 人々が声の主を探す中、一人、月夜に浮かぶ影を見つけた。 「お、おい。校舎の砲台の上。誰かいるぞっ」 それは左腕が足元まで届くような長さを持った、赤い髪の人物。 その人物は、人々の注目が集まったと知るや、笑って宣言する。 「もうこの騒ぎはおしまいよ。この軍神アスタリカ=オニールが、この地を見守る限りねっ」 突き出した手には、ぐったりとナイトメアが吊るされていた。そしてすぐに、ナイトメアは消える。 同時。 今までの騒ぎが嘘であったかのように、全てが消え去っていた。 気付けば、噪域も足枷工大に隣接する所で動きを止めており――。 「アスタリカ=オニール……?」 その名と噂だけが、静かな夜に残された。 ○―― 二月十四日。バレンタインデー。 正午の足枷工業大学は、まばらな通学風景と講義間の移動の学生が入り混じっていた。 そんな中、構内をがらりごろりと何かを引きずる音が響く。 左手に掴んだ取っ手から長く後ろに伸びるのは小旅行に使うようなキャリーバック。しかし、その先端には小銃が付いており、足枷市らしさが見て取れた。 歩けばいつの間にか仔狐がキャリーバッグにじゃれついている。 「レジェンドといえばさー、この間の噪域大移動とシステム夢幻大暴走事件、あったじゃない」 「あのあとね、システム夢幻本体は噪域の取り込まれちゃって回収不可。一体何が原因かわからなくなっちゃったの」 ああ、それは良かった。と炬宵は思う。あの中で起こっていたことは、それほど人目に付けるようなものではない。 ただ、思う。あの夜に取り込まれたメンバーも、ちゃんとまた学生に戻ったのだな、と。 「でも、話はそれで終わらないの。これ、都市伝説みたいなものだけどね。まだ生きてるらしいのよ。そのシステム夢幻」 がらり、ごろり。 仔狐がキャリーバックにじゃれる。 「そしてね、その中に入ったら、噪域と違ってずっと出られないの。“誰かに殺されない限り”」 ○―― ふと気付く。一人。館林凛子がじっと炬宵を見ていることに。 目が合い、つかつかつかと凛子が近寄り。 「あなた、名前は? 名乗りなさい」 人工声帯のしゃがれた声で、しかし聞き取りやすい命令口調で告げられた。 「茅ヶ崎炬宵です……あの、茅ヶ崎燵夜の妹です」 凛子は「そう」とだけ言って何かを考え込み、そして改めて言う。 「アスタリカ=オニールって、知ってる?」 言った直後だ。 世界が闇に包まれた。 小鬼が笑う。 広がる夜空と、煌々と照らす月。 辺りを見回せば、その場に居るのは見慣れた悪夢の住人たちと、炬宵の友人。そして。 「ようこそ我が悪夢へ! そして今日こそ返してもらうぞ! 我が身体、システム夢幻ッ!」 ゲラゲラゲラと小鬼が笑い、夜の闇の中から獣の気配が沸き立つ。 「なっ、何っ、なになにっ」 パニックに陥る友人に、炬宵はため息一つついて背筋を伸ばした。 「大丈夫。こんなのはただの夢だから」 ○―― そして、凛子も頷く。 「そう。そしてこの悪夢を――私たちの人生を食べる神様も、いるのよね」 その言葉に、友人も炬宵の手をぎゅっと握る。 「は、はいっ。聞いたことがあります! 命を差し出す替わりに、悪い人生から解放してくれる神様ッ」 あ、そうか。と炬宵は気付く。 目覚めた夜。アスタリカが言っていた「神様をやめる」という言葉。 そして、街に広まる噂。 「そう――アタシ、アスタリカ=オニールを呼んだかしら?」 月下。図書館の前に、長い左腕をもった軍神が立っていた。 彼女は選んだのだ。生まれ方を。 「また邪魔を……俺を利用するのか――アスタリカッ!」 それはまるで何年も何十年も続けられている終わることのない宿命の戦いのように。 「邪魔をするのはアタシじゃないわ、人間よ。だってアタシは――」 誰かかアスタリカを噂する。誰かがアスタリカを頼りにする。そうしてアスタリカが形作られていく。それがある限り、誰かが必要とする限り、アリカは生まれ続ける。かつて復活した【M】と同じように。 だから。 だからこそ、言わなければ。 「そう、だってアリカは、私たちの神様だから!」 言って炬宵もキャリーバックを振りかぶる。 その上では小鬼がゲラゲラ笑っている。 げらげらげら。 生まれるために。生き残るために。 夢から覚めて、立ち上がれ、と。 ぷそ研//Life:OVER//のいのい げらげらげら 笑っておわり やぼーのホームページへ戻る |